こんにちは、とあるです!
今回は第71回カンヌ国際映画祭のグランプリ受賞作であり、第91回アカデミー賞でも作品賞、監督賞など6部門にノミネート、脚色賞受賞を果たした映画、
『ブラック・クランズマン』
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についてお話しします!!
2019年3月22日より全国で上映開始された本作は、KKKに潜入捜査した黒人刑事が主人公の同名ノンフィクション小説を、『マルコムX』などで知られるスパイク・リー監督が映画化した作品。
KKKとは…クー・クラックス・クランの略称。白人至上主義を掲げる団体で、年代により規模や思想などに変化は見られるが、犯罪行為に手を染める過激な構成員も多くいた。
同じく黒人差別を描いてアカデミー作品賞に輝いた『グリーンブック』を鑑賞している自分としては、その描き方の違いも気になるところです。
それについてはあとのほうで言及しようと思うので、まずは作品情報からどうぞ!
この記事の目次
- 作品情報
- 主なスタッフ
- 主なキャスト
- 予告動画
- ネタバレ、結末
- 感想
- グリーンブックとブラック・クランズマン
- アイデンティティの確立
- 写真で見る差別の歴史
- 評価
作品情報
原題:『BlacKkKlansman』
製作年:2018年
製作国:アメリカ
上映時間:135分
主なスタッフ
監督、脚本:スパイク・リー(『ドゥ・ザ・ライト・シング』、『マルコムX』)
製作:ジョーダン・ピール
脚本:チャーリー・ワクテル、デビッド・ラビノウィッツ、ケビン・ウィルモット
主なキャスト
ロン・ストールワース…ジョン・デビッド・ワシントン(『愛・ビート・ライム/愛はラップに勝る』、『Monsters and Men(原題)』)
フリップ・ジマーマン…アダム・ドライバー(『ハングリー・ハーツ』、『スターウォーズ』シリーズ)
パトリス・デュマス…ローラ・ハリアー(『ラスト5イヤーズ』、『スパイダーマン:ホームカミング』)
デューク…トファー・グレイス(『トラフィック』、『ルイーズに訪れた恋は…』)
フェリックス…ヤスペル・ペーコネン/コニー…アシュリー・アトキンソン/クワメ・トゥーレ…コーリー・ホーキンズ/ウォルター…ライアン・エッゴールド
※太字=役名、細字=俳優名。括弧内は主な出演作。
予告動画
ネタバレ、結末
※結末は知ってるからネタバレはいい!という方、先に感想を読みたいという方は下のボタンを押してください。
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感想を読む
コロラドスプリングス警察署に採用されたロンは、同地で初の黒人警察官として資料課に配属されるも、同僚の嫌がらせや単調な業務にウンザリ。
彼から部署の移動を嘆願された署長はロンにブラックパンサー党(黒人解放運動を展開していた政治組織)の元主席クワメの演説集会に潜入する任務を与えます。
同僚と協力して集会に潜入するロン。結局クワメは危険思想の流布や違法行為を行っている証拠はなく、捜査はそこで終了となりましたが、会場で知り合った黒人学生連合の代表である女性パトリスから自身が受けたという白人警官の違法職質の実態を聞き、複雑な思いを抱くのでした。
捜査終了後、情報部に転属したロンはたまたま広げた新聞にKKKの募集広告が載っているのを発見。ふと彼らを洗ってみようと思い、なんと実名で電話した彼は成り行きで支部長のウォルターと会う約束まで取り付けてしまいます。
しかしKKKと会うのに黒人のロンはどう考えても不適任。そこで同僚のユダヤ人刑事フリップにロンという名で潜入してもらい、自身は電話担当としてサポートに回ることに。
かつてないほどに無謀な捜査と思われた今回の作戦ですが、フリップは彼らと交流を重ねるうちに信頼関係を築き、メンバーの1人であるフェリックスがパトリス排除の計画を立てていることを把握。
一方、ロンは本部に電話をかけた際に偶然KKKの指導者デュークと知り合い、彼に好印象を与えることに成功。デュークは数日後に行われるロンの入会の儀式にも参加すると申し出てきました。
しかし儀式の当日、ある問題が2人を悩ませることに。
なんと儀式に参加するためやってきたデュークに大量の殺害予告が届いたことで、人員の足りない署はロンを護衛に付けることにしたのです。
彼らはバレないように行動しつつ、その日行われるとされているパトリス排除計画を防ぎ、犯人を検挙しなくてはならなくなりました。

ロンは仕方なくデュークの警護につくと、儀式は黒人の給仕係も働く会場で行われます。儀式は滞りなく進んだものの、会場でフリップの正体を知ったフェリックスは、デュークも同席する会食中に嫌らしくも本名で呼び始めました。
フリップは内心かなりの焦りを感じていましたが、事実が露見されそうになる前にフェリックスは給仕係に呼び出されて退出。
呼び出しの理由はフェリックスの妻コニーからの電話です。会場の外で排除計画を実行していた彼女は、ロンが事前に増やしていた警備のせいでパトリスを排除できなかったことを伝えてきたのです。
電話を切ったフェリックスは一派を引き連れて会場を後にします。そのことから計画が変更されたことを察したフリップはデュークに嘘をついて彼を追うことに。
一方、既にデュークの警護から離れていたロンがコニーの行方を追っていると、パトリス宅のポストに爆弾を設置するのに失敗し、代わりに彼女の車の下に隠すコニーを発見。
急いで取り押さえたロンですが、その様子を見て黒人による婦女暴行だと勘違いした警官がロンを逮捕します。パトリスも外の騒ぎに気づいて、家から出てきてしまいました。
すると会場から抜け出してきたフェリックス一派が車で現れ、今だとばかりに爆弾を起動。しかし、変更された計画通り、ポストに爆弾が仕掛けられていると思っている彼らは今真横にある車に爆弾が設置されていることを知りません。
パトリスの車と共にフェリックスたちは吹き飛び、車は炎上。後からやってきたフリップによってロンは解放され、コニーは逮捕されます。パトリスは爆発の被害を受けることなく無事でした。
その後、彼女に違法職質をした警官の逮捕にも成功して、デュークに一連の捜査のネタバレをお見舞いしたロンは、一躍署内でも有名な人気者になりました。
しかし彼とパトリスが自宅で談笑していると真夜中にも関わらず、誰かがチャイムを鳴らします。
銃を構えた2人が扉を開けてみると、画面は2017年バージニア州シャーロッツビルで起きた白人至上主義を掲げる人たちとそれに抗議する人々の衝突の様子へと切り替わります。
映画はバージニアの衝突による被害者の写真と、白と黒で構成された上下逆の星条旗を映して終わりを迎えるのでした。
感想
グリーンブックとブラック・クランズマン
前書きでもお話した通り、僕は本作の前に同じ黒人差別を扱ってアカデミー作品賞を受賞した『グリーンブック』を観ています。
しかし差別が盛んだった時代ではなく今の時代に生きながら、そして現地アメリカではなく日本に住みながら、映画としての娯楽性を味わいつつ、差別の現実を目の当たりにしたいのなら、
僕は間違いなく『ブラック・クランズマン』をオススメします。
『グリーンブック』の中で感じられるのは、差別者と被差別者、深く交わることのなかった彼らが初めて関わったことで生まれるドラマティックな変化。
心の雪解けを描いた人間ドラマであり、あくまで差別は控えめに、分かる程度に添えられていた印象です。
そのストーリーは『メリーに首ったけ』でド下ネタな展開を繰り広げていたピーター・ファレリーが監督したとは思えないほど、上品で綺麗なまとまりをしていました。
実話をベースにしていると聞いても、「こういう巡り会いって…あるんやねホロリ」となるに留まります。
しかし本作『ブラック・クランズマン』は黒人警官ロンがユダヤ人警官フリップと協力し、KKKに潜入捜査をするという現実離れした数奇なストーリーが展開されており、
「え!?そんなこと出来るのか!?!?」
「ほらほら、バレちゃうよ…。」
「ふー…あっぶなーー……。」
と観ている側としては差別という重いテーマを描いた作品ながら、その娯楽性を存分に楽しめるものとなっています。
でもここからがスパイク・リー監督のすごいなと思うところで、彼は最後まで映画としての娯楽性を残しつつ、差別の歴史や実態、そしてそれが今も尚続いていることの恐ろしさを明確に突きつけてくるんですよね。
要するに彼は「おもしろかった!」と「考えさせられた…。」を一つの作品に両立させられる人物なのです。
ピーター・ファレリー監督は白人だから、黒人差別のことは不勉強で真に迫るものがない…とは言いません。
しかし黒人であるスパイク・リー監督が実際に見聞きし、体験したであろう差別の数々を凝縮したこの映画の深みには勝てるわけがない。
僕らはこれを観るべきです。
そして観た後に世界を見るべきです。
人種差別を容認する大統領がいるあの国は過去の過ちを繰り返してしまうのか。今何が起きているのか。
最後に自分の胸に手を当ててみるべきです。
お隣の国とは仲が良くないですが、彼らを悪いイメージで一括りにしていないでしょうか。
憎しみに居場所なし。
映画のラストに出てくるこの言葉が胸に刺さります。
アイデンティティの確立
ロンの同僚で潜入捜査の実働部隊となるフリップ。最近では『スターウォーズ』シリーズのカイロ・レン役を演じたことでも有名なアダム・ドライバーが彼を演じています。
そんなフリップ、一見するとロンを囲む白人社会の一員として馴染んでいるようにも見えますが、実はユダヤの血を受け継いでいる人物でもあります。

作中のKKKは彼らのことも敵視しているため、ロンが潜入するのと同じくらいバレたらやばい人なんです。
でもフリップはそこまで自身の出自にこだわりを持っていません。それは人種の差に無関心とも取れますが、同時に自らの種族に対する誇りを持ち得ていないということでもあります。
彼がユダヤ人としてのアイデンティティを確立していく経緯、それは奇しくもKKKに潜入し、彼らの非道な行いを目の当たりしたことから始まっていました。
そしてその彼の姿は鑑賞者である僕らともリンクするんですね。
スパイク・リー監督が作中にふんだんに散りばめた、思いのこもる主張の数々。僕はそれを観て黒人の在るべき姿を感じるとともに、日本人とは何なのかを反芻してみました。
自らの人種や歴史に誇りをもって愛するのは素晴らしいことです。しかしそれが度を過ぎればKKKと変わらなくなる。他人種である仲間たちも皆一様に誇りを抱えていて、それを非難したり虐げることはあってはならないことです。
KKKへの捜査では主にロンが指示を出してフリップはそれに従うという展開が多いため、絶妙なコンビネーションなどを味わう場面が少なく、バディムービーとしての面白みには欠ける印象ではありますが、
僕はロンやその他の黒人からではなく、フリップというキャラクターからも人種について考える機会を得ることが出来ました。
写真で見る差別の歴史
前項まででは文字ばかりすこし長めに書いたので、ここでは写真を使ってお話ししようかなと思います。
まずは一枚目。
本作では黒人警官ロンとその仲間たちがKKKに挑む様子が描かれていましたが、1928年に撮影されたというこの写真ではペンシルベニア州警察とKKKが仲良く記念写真を撮っています。
当時はKKKに好意的な政治家が多く、愛国主義者の団体として支持すらもされていたそうです。
二枚目はこちら。
かなりショッキングなこちらの写真は一枚目から約30年後の1961年5月20日のもの。公共交通機関での人種差別に反対する「フリーダム・ライド」に参加し、襲われた男性の写真です。
この頃には度重なる不祥事によって以前のような求心力を失っていたKKK。しかし彼らのメンバーではなくても、その思想を持つ白人は多く存在していたようです。
三枚目。
写真がカラーに、そしてクリアになりましたね。そう、何しろこの写真は2017年に撮られたもの。しかし左下を見るとわかる通り、今でもあの白装束を纏って白人至上主義を掲げる人は存在しています。
それでも両脇には声を荒げる多くの反対派の姿が。2018年、ホワイトハウス前で白人至上主義団体が集会を開いた際、その参加者は15人ほどであるのに対して数千人の反対派が集まりました。
差別の主張が多くの支持を獲得していた過去に比べ、現代ではそれに対抗する反対派が多く存在しています。こうみるともうKKKやその思想を持つ人たちには影響力が失われたように思えるかもしれません。
しかし五、六枚目の写真がこちら。
これは監督が映画の中にも用いている写真です。
バージニア州のシャーロッツビルで起きた、白人至上主義者やネオナチの支持者らと反対派の間での激しい衝突。その中で反対派のデモに一台に車が突っ込みました。
その結果、デモに参加していたヘザー・ヘイヤーさんが亡くなりました。逮捕されたのはジェイムズ・アレックス・フィールズ・ジュニアという当時20歳の男。
この項のタイトルを写真で見る差別の歴史と銘打ちましたが、スパイク・リー監督も作中で実際の写真や『國民の創生』という実在する映画を用いたりして、いかに酷いことが行われてきたか、それを信奉するKKKがいかに愚かな存在かということを痛烈に批判しています。
そしてそんな物語のラストに用いられるのが、先ほどの写真を含めたシャーロッツビルの惨劇。トランプ大統領や現在のデュークの姿とともに映し出されるその映像は確かに直接的過ぎて監督の主張が前面に出すぎていると思わなくもありません。
しかし物語でロンが懲らしめたKKKの思想が若い世代にも広まっているというのは見過ごすべきではありません。監督は差別は無くなっていない、未だ広まりを見せているんだということを伝える必要があると考えたのだと思います。
では最後に亡くなったヘザー・ヘイヤーさんの最後のフェイスブック投稿を紹介しようと思います。
If you’re not outraged you’re not paying attention.(あなたが怒っていないのは注意を向けていないから。)
僕はこの言葉と本作を観て、差別とは遠い国の出来事などではない。全人類が未だ抱え続けている負の遺産であるということを再認識させられました。
評価
前代未聞の奇抜な作戦とそれがもたらした一つの勝利。事件が解決して作品の締めに入る部分では映画としての娯楽性を保ちつつも、未だ差別に対する問題を捨てきれずにいる現代社会の混迷をありありと映し出していました。
本作を点数にして評価するならば…
91点!!
といったところでしょうか。
それでは今回はここまで。このブログに対するご意見、ご感想はコメント欄にてよろしくお願いします。ではでは!