【ネタバレ感想】映画『物ブツ交換』:どこまでも続く無為、ジャガイモ畑

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品を揃え、村々を渡り歩いてゆく行商人。客である村人が差し出すのは金でなくジャガイモだった。

※今回はドキュメンタリー映画のため、満足度を示す星評価は行っていません。

この記事の目次

  1. ストーリー
  2. 感想(ネタバレあり)

ストーリー

東ヨーロッパのジョージア。辺境地を巡り、日用品や古着を売り歩く1人の男。

ここではジャガイモが通貨、貧困にあえぐ土地では野心や夢を追う余裕などない。

引用:物ブツ交換 | Netflix (ネットフリックス) 公式サイト

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感想(ネタバレあり)

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2020年の初めごろ、牛丼チェーンの松屋さんではジョージア料理のシュクメルリというものを提供していた。

そのときは「いつか食べてみたいなぁ」と思っていたのにもかかわらず、ついぞ食べそびれてしまったのだが、のちに僕は、松屋さん公式が載せたというレシピの存在を知る。

「いやー、これは太っ腹だなぁ。作るっきゃない。そうだ、せっかくなら未だ見ぬジョージアの地に思いを馳せながら食べてみよっと」

そんな考えからNetflixを漁ってみたのが、この映画との出会いとなった。ちなみに、さきほど登場したレシピというのはこれのこと。

松屋公式!お家で『松屋のシュクメルリ』 by 松屋公式
『シュクメルリ』とはジョージア国の郷土料理で、2020年1月中旬〜2月まで全国の松屋で期間販売したメニューです。
cookpad.com

本来のシュクメルリはニンニク以外に野菜のまったく入らない料理らしいのだが、このレシピには、サツマイモがふんだんに使われている。

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そして、いざ実際に作ってみると、これがホワイトシチューのルーと、たっぷりのチーズに絡み合い、甘くて、とてもおいしい。ニンニクも鶏肉の旨みをより引き立たせている。

材料もそれほど多くないし、なにより簡単に作ることができる。「今晩のおかずにでもいかが?」と、おすすめしたくなる一品だった。

これが僕の作ったシュクメルリ。おいしかったけど、この写真はちょっとそう見えるように加工しちゃった。見栄。

さて、ここからがようやく『物ブツ交換』本編の感想となる。

なんとなくシュクメルリの占めるウェイトが間違っているような気がするが、もうひとつの間違いといえば、本作が食事の片手間に観るような映画ではなかったということだ。

しかし、事実として、こんな理由でなければ観ていなかっただろうと思うし、結果的には、観ておいてよかったなとも感じる映画であった。

この作品の舞台となるのは、ジョージアの、どこかだだっ広い平野にたたずむ村。

そんな地にやってきた行商人は、仕入れてきた商品を物珍しそうに眺める村人に対し、それはジャガイモ何キロ、それは何キロと、ぶっきらぼうに値段を提示していく。

だいたいの村人はそこで一瞬(たっけぇ…)とでもいうような気持ちを顔に滲ませて、「じゃあ、ラリなら?」と返す。

そんな会話からもわかるように、この地域では第一通貨としてジャガイモが、第二通貨としてラリが使われているようだった。

もっぱら行商人がこれは何キロとだけ示しているあたり、ジャガイモでの取引がメインのようだけど。

ここまでの様子をみると、この地域の暮らしは日本と比べても貧しいことがよくわかる。そんな中、僕の印象に残ったシーンがふたつほどあった。まずはさきほどの取引のシーン。

「それはブーツだ。イモ25キロ」「ラリなら?」「15ラリ」

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イモ25キロ?日本人が一年間に摂るといわれるジャガイモの量と、ブーツ1足の値段が同じ(例えがわかりにくい)なのか…と心底驚かされたのだ。

15ラリは今のレートで525円。ジョージアの平均月収は約6万円と聞いたので、僕らでいう2000円ぐらいの感覚なのかなとか考えた(僕は高校の数学の単位を落としているので、おそらくこのロジックは間違っている)が、村人はこれをジャガイモで買っていった。

この村の人々は老若男女を問わず、ジャガイモの栽培に勤しんでいる。この村にはラリを獲得する手立てがないに等しいとみた。

生きるために作る。それしかすることはないのかもしれない。

そして、ここでさらにズシンとした重みを感じたのが、「今の夢はなに?」との質問を受けた村の少年と、老人の、それぞれが返した答え。2つ目の印象に残ったシーン。

「…(ジャーナリストよね。と母親の出した助け舟にうなずき、照れる)」と子ども。

「豊作に恵まれ、仕事を続けること。それだけだ」と老人。

恥ずかしくて言い出せない明るい夢と、キッパリと言い切れてしまうが、諦観の念のこもった夢の対比だ。

タバコをくゆらせ、質問に答える老人。本当は大学を出たかったらしい。 ©Netflix. All Rights Reserved.

あの少年が夢を叶えるためには、きっとどこかのタイミングで村を出なければならない。しかし、そのときのための蓄えは、はたして彼の家にあるのだろうか。

この老人は、少年の未来の姿なのかもしれないと思うと、やるせない思いでいっぱいになってしまった。この映画の23分には、そんなやるせなさがずっと立ち込めている。

途中、出てきた子どもたちが整った身なりをしているように見えたりと、映画自体の短さもあってか、衣食住の背景が掴みにくかったというのは、残念なところ。

この村での実際の生活のほどを、もっとよく見てみたかったという思いはある。

しかし、それを抜きにしても、このジャガイモ村のある平野と、そこに住む村人たちの無為(のように見えてしまう)な暮らしが、どこまでも続いていくようにみえて、気の遠くなる思いとともに心に残った映画なのであった。

[ 作品情報 ]

  • 監督・脚本 タムタ・ギャブリシズ
  • 製作 2018年 ジョージア
  • 原題 სოვდაგარი
  • 英題 The Trader
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