98年生まれ。元レンタルDVDショップのスタッフ。地雷っぽい映画をあえて観てはアタリだったときの快感に酔いしれてばかりいる。そんな人間です。
今回、お話ししていくのは監督をニルス・タベルニエが務め、ジャック・ガンブラン主演で送られるコチラの映画
『シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢』
(C)2017 Fechner Films – Fechner BE – SND – Groupe M6 – FINACCURATE – Auvergne-Rhone-Alpes Cinema
奇妙な形の石につまづいたことをきっかけに、たった一人で、しかも独学で宮殿の建設を始めてしまった郵便配達員の実話を描くヒューマンドラマです。
当ブログ『映画鑑評巻』では一部の項にネタバレ解説を記載していますが、このまま読み進めても目に入らない仕組みとなっておりますので、未鑑賞の方もぜひ評価の項などを鑑賞の目安にお使いくださいね。
それでは早速、作品情報から…どうぞ。
この記事の目次
- 作品情報
- 主なスタッフ
- 主なキャスト
- ストーリー
- イントロダクション
- 予告動画
- 結末までのネタバレ
- 評価
- 感想(ネタバレあり)
- ある“家族”の愛の結晶・理想宮
- 俳優ジャック・ガンブランが豊かに描き出す、心の機微
- 最後に
作品情報
主なスタッフ
監督:ニルス・タベルニエ
・長編映画の監督作には『グレート デイズ! 夢に挑んだ父と子』(2003)や『オーロラ』(2006)など。もとは俳優で、父であるベルトラン監督の『Des enfants gates(原題)』(1977)にも出演した。
脚本:ファニー・デマール、ロラン・ベルトーニ
製作:アレクサンドラ・フェシュネル、フランク・ミルサン
撮影:バンサン・ガロ
美術:ジェレミー・デュシエ・リニョル
衣装:ティエリー・デレットル
音楽:バチスト・コルー、ピエール・コルー
主なキャスト
シュヴァル:ジャック・ガンブラン
・ニルス監督の作品『グレート デイズ! 夢に挑んだ父と子』(2003)で主人公ポールを演じたほか、彼の父であるベルトラン監督の『レセ・パセ 自由への通行許可証』(2002)でも主演として出演。
フィロメーヌ:レティシア・カスタ
アリス:ゼリー・リクソン
オーギュスト:ベルナール・ル・コク
フェリシエンヌ:フローレンス・トマシン
シリル(成人):ルーカ・プティ・タボレッリ
ストーリー
イントロダクション
フランス南東部の村にて、妻や息子のシリルと慎ましく暮らす男シュヴァルは寡黙で空想好きな郵便配達員。
ある時、妻に先立たれ、シリルとも離れ離れになった彼は、新しい担当地区での配達途中に未亡人フィロメーヌと出会い、結婚。
後に一人娘アリスを儲けるものの、彼は突然、宮殿作りを始める。これは配達途中の道で躓いた石から着想を得た、彼なりの娘に対する深い愛の形であった。
妻には半ば呆れられ、村人からは変人扱いされながらも作業を進めるシュヴァル。やがて彼は成長したアリスに対し、宮殿を通じて様々なことを教えていくが…。
予告動画
結末までのネタバレ
ラスト、結末までの簡単ネタバレ。
ポチっ!とすると下に開きます。
奇特な父のことを、そして宮殿のことを次第に自慢に思うようになっていったアリスだが、ある年の冬、彼女は重い脳膜炎にかかり、そのまま天国へと旅立ってしまう。

娘の死は、同じ頃に事故で宮殿の建設をストップしていたシュヴァルを精神的にも参らせ、彼は宮殿作りへの熱意を喪失。
しかし、宮殿の噂が広まったことで再会出来たシリルにウジェニーとアリスという兄妹が生まれていたこと、そしてフィロメーヌからの激励を受けたことが傷心から立ち直るきっかけとなり、シュヴァルは建設を再開する。
やがて彼は自然や異国の文化をふんだんに取り入れた精巧な作りの宮殿“シュヴァルの理想宮”を作り上げると、その姿が映された写真は絵葉書として世界中を駆け回るのだった。
(C)2017 Fechner Films – Fechner BE – SND – Groupe M6 – FINACCURATE – Auvergne-Rhone-Alpes Cinema
宮殿を完成させ、満足気な表情を浮かべるシュヴァル。しかし、その後すぐにシリルが、数年後には自身を献身的に支えてくれた妻フィロメーヌが病で息を引き取ってしまう。
フィロメーヌの死の直前、アリスにも、シリルにも伝えられなかった言葉での愛と感謝を口にしたシュヴァルは、自らと家族のための墓所“終りなき沈黙と休息の墓”の建設を開始するのだった。
老齢となり、震える手で作業を行うシュヴァル。そんな彼のもとにある日、成長した孫娘アリスとその彼氏がやってくる。
結婚を控えている彼らは、この宮殿で式を行うことを考えており、その式にシュヴァルも参加して欲しいと頼みに来たのだ。シュヴァルは快くそれを引き受けた。
当日、式には沢山の人々が訪れた。今までの人生を振り返りながら、その様子を眺めていたシュヴァル。彼は新婦のアリスよりダンスの招待を受けると、彼女に愛娘アリスの姿を投影し、「今、行く」と答えるのだった。
(C)2017 Fechner Films – Fechner BE – SND – Groupe M6 – FINACCURATE – Auvergne-Rhone-Alpes Cinema
評価
映画『シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢』に対する、僕の個人的評価(満足度)は…
7.5
…です!心にじわりと染みた!
変わり者の郵便配達員シュヴァルの半生を、ニルス監督作連続主演のジャック・ガンブランが年齢ごとの見事な演じ分けで好演!余韻の暇ない前のめりな展開は少し残念でしたが、世界一共感の出来ない、不器用な愛の結晶たる宮殿建築物語のラスト…これにはついホロっときちゃいました。
感想(ネタバレあり)
ある“家族”の愛の結晶・理想宮
郵便配達の仕事を長年こなしながらも、その道々で石を拾い、33年もの年月をかけて独学で宮殿を作り上げた男シュヴァル。
本作『シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢』はそんな彼の半生をなぞりつつも、決して共感の出来ない…しかし、そこに深い想いを感じずにもいられない、奇妙な彼の行動の中に“不器用な家族愛”を見出した美しい物語となっておりました!!
人間史の始まり以来、親という役割を経験した人は星の数ほどいるとは思いますが、その中でも自身の娘と接するために宮殿を作り上げた人間…これはもう彼だけしか居ないんじゃないでしょうか??
恥ずかしながら、僕は彼の存在を本作を観るにあたって初めて知ったのですが、まず最初に「こんな人が居たのか!」とビックリ。それと同時に「世界って広いな。人間って面白いな」とも思ったのでした…ww
ですが、このシュヴァルの行動…周りの人間からしたら、たまったもんじゃないですよね。一応、仕事はちゃんとこなすとはいえ、超が付くほどの対人交流の苦手さに加えて、度が過ぎるほどの初志貫徹っぷり。
おまけに配達中に自身を迎え入れた数々の自然に対するアニミズム的な物の考え方や、趣味である異国の絵葉書などで学び得たグローバルな物の捉え方、
シュヴァルはそれらを“娘アリスへの人生訓”として宮殿に込めていたようにも僕は感じてしまいました。勿論、単に遊び場としての役割が大きかったとは思いますけどね。

でも、もしそうだとしたら…それはあまりにも抽象的。言うならば、近年、ダメ上司の典型とも言われる“俺の背中を見て学べ”的なワンマンぶりすら思わせますよね。
しかし、シュヴァルは家族から、村人から、やがては国からも愛された。部下に嫌われがちなダメ上司とは一体、何が違うんでしょうか。
ありきたりにはなりますが、そこを左右したのはやはり“心の綺麗さ、愛の大きさ”…というところなんじゃないでしょうかねー。
今となってはシュヴァルのこの気質は自閉スペクトラム症によるものと片付けられてしまうのかもしれませんが、それでも彼の心の内にある純度100%の愛は美しく、それに気づいたフィロメーヌやアリスの心もまた美しいものでありました。
また最初こそ娘のためにと独善的に作られていった理想宮ですが、その真なる想い、愛の大きさに触れた妻フィロメーヌやアリスが彼に愛で答えたことで、
宮殿の性質も終盤に登場する女性がモダンなフラッパースタイルに身を包んでいたが如く、変容。一方通行な愛のカタチではなく、相互関係の愛がカタチとなっていきます。
シリルの件もありますが、この家族との“言葉に頼らない、宮殿を通じた心の交流”が彼の人生をも良い意味で変えていくといった過程…これがまた心にじわりと染みる構成となっていましたねー。
シーン毎の展開が早く、シュヴァル以外の人物の心情が物語の都合よく変わっていったようにも感じられたり、割と重要な場面での余韻が十分に味わえなかったのは残念ですが、
ラストシーンで、シリルの娘、自身の孫娘である花嫁アリスの呼びかけに、亡き愛娘アリスの姿を投影しつつ応じた、晩年のシュヴァルの優しさと満足感に溢れた表情…。
僕はこれを観て改めて“シュヴァルの理想宮”という存在は娘への愛を端に発しながらも、フィロメーヌやシリルといった他の家族からの愛によっても形作られた…“シュヴァルたち家族の愛の結晶”であると感じましたね。
俳優ジャック・ガンブランが豊かに描き出す、心の機微
主人公シュヴァルを演じたのはニルス監督の前作『グレート デイズ!夢に挑んだ父と子』でも主演を演じたジャック・ガンブラン。
本国フランスでの作品上映後に行われたQ&Aで脚本の方が答えた内容によると「当初からジャックをシュヴァル役に据えていた訳ではなかった」そうなのですが、彼はもうこれ以上ないほどのハマり役でした!!
挙動不審な振る舞いの中にも確固たる優しさを備えた佇まいだとか、作中でも度々挿入されていたフランスはドローム県の魅せる自然の如き、豊かな心の表情、目の演技…。
そういった言葉に頼らない、心の機微をしっかりと表現できる力を持ったジャックだからこそ、ぽつりぽつりと発する朴訥なセリフの一言一言が胸に刺さってきたんですよね。
季節の移り変わりによって、様々な美しい表情を見せるフランスの自然。
その自然と同じく、様々な表情でもって、巧みに、しなやかにシュヴァルの半生を演じたジャック・ガンブランの演技は曇りなき愛を持った彼の姿とよくマッチしていました!
最後に
いやー、良かった…。上映館こそ少ないけれど、観て良かった映画でした。
フランスってよく名前を聞く割に「知ってる観光地は?」というとあまりピンと来ない国だったのですが…シュヴァルの理想宮、これは俄然行ってみたくなりましたね。
彼の不器用な愛の形、この映画を観たことによって、より強く感じられそうです。
ということで今回はここまで。本記事に対するご意見、ご感想はコメント欄によろしくお願いします!ではでは。